2012年9月22日土曜日

私は2012年10月から試行的にMS Officeとそのフォーマットの使用を極力控え、OpenOfficeをOpenDocumentフォーマット(ODF)で使うことを基本にします。



私は2012年10月から試行的にMS Officeとそのフォーマットの使用を極力控え、OpenOfficeをOpenDocumentフォーマット(ODF)で使うことを基本にします。

ICTは今や社会の共通インフラです。ICTが使えないと十分な知的生活は送ることができません。それどころか、就職の機会さえ阻害されかねません。以下は私が信頼する高校教師が報告するエピソードです。ある媒体に書かれてありました。ご本人の許可を得て、ここに転載します。


金曜日に突然、3年生の保護者から電話がかかってきて、「市役所の採用試験を受けたいのだが、家にインターネット環境がなくて、 出願できない。市役所に問い合わせたら、インターネットカフェか学校でやってもらってください、と言われた」 とのこと。

市役所の対応は、「ちょっと~!」って内心思ったけど。

ここのお家は、自営で、おうちにはネットもPCもないそうだ。

急遽、親子で学校に来てもらったけど(徒歩3分というので)、 その子は、公務員試験を受けるなんて、ちっとも知らなかったし(一応、私は公務員試験の模試とかを案内する担当なので)。

まず、この市役所の公務員試験の申し込みは、 電子申請なので、PCのインターネットが使えないとダメとのこと。

受験の申請がうまくいったら、メールでお知らせがきて、 受験票をダウンロードしてプリントアウトするんだとか、 この市の受験案内には書いてあった。

学校に来てもらって、やってもらおうとしたけど、 まず、PCのメールアドレスがなくて、アウトだった。

学校の業務用パソコンでは、フリーメールのウェブサイトは、 制限があって、たどりつくことができない。

というわけで、ダメ。

そもそも、公務員試験で、こんなデジタル・デバイドを設けていいのだろうか、と思った。

持たざる者と持てる者を差別することになるよね。

高校生でも、ここまで、要求するのか、されなくちゃいけないのか、と釈然としなかった。

でも、英語でも同じようなことが起こりつつあるのか、と思うとこわいなあ、とも思う。




しかし一方で、ICTはますます現代社会の中に組み込まれ、私たちはICTを使わずにはいられなくなってきています(少なくとも資本主義社会への適応を志向する限りにおいて)。

そうなれば、教育者としては、できるだけICTについての教育を充実させる必要があります。ですが、それと同時に、経済的な理由でICTが使えないような状況をできるだけ阻止することが必要だと私は考えています。


ここで私が問題にしたいのが、Microsoft Office(以下、MS Office)がデフォルト化され、MS Officeの使用がほとんど義務化されていることです。多くのファイル提出が、MS Officeで作成されることを求められています。

周知のようにMS Officeはかなり高価なソフトです。それを購入することが容易ではない個人・団体は少なからず存在します。

それでもMS Officeでしかできない必須の機能があるなら話は別ですが、私見では、そのような機能はありません。ほとんどの人が必要としているのは基本的な機能だけで、それは他のソフトでも十分に可能です。ですが、MS Officeの使用がほとんど義務化されているので、私たちはそれを購入するように仕向けられます。かくして多くの人がMS Officeを購入します。

しかしMS Officeをいったん購入すれば、それでOKということでは必ずしもありません。Microsoft社は、資本主義社会で競争する企業の常として、次々に「バージョンアップ」した新製品を投入し、新しくMS Officeを購入するように仕向けます。次々に人々に消費を強いるのが資本主義社会のあり方です。

もちろん古いバージョンでも使えるようになっているはずですが、実際に使ってみると、古いバージョンのMS Officeでは微妙に使い心地が悪かったり細部がずれたり表示できなかったりと、小さなトラブルに悩まされます。かくして新しいMS Officeを購入するように私たちは仕向けられます。またMS Officeを保存すると、何も指定しないままだと新しいファイル形式(docx, xlsx, pptxなど)で保存され、古いバージョンのMS Officeでは読めません。

これが嗜好品のことでしたら、私も問題視しません。個人が個人的に好きなことのために特定の商品に自分のお金を使うことになんの問題がありましょうか。しかし冒頭に述べましたように、今やICTは社会の共通インフラだと私は考えていますから、私としては、そのためのソフトはできるだけ経済的要因に左右されずに入手できるべきだと考えます。

このような考えは私は以前からもっていまして、以前も、MS Officeの使用を極力控えて、無料で誰でもダウンロードできるOpenOfficeでファイルを作成するようにしていました。OpenOfficeの普及に少しでも役立ちたち、ICTの公共性に対する関心を高め、ひいてはICTのためのボランティア活動をなさっている方々への支援を増やしたいと考えたからです。

しかしその際のファイルは、Microsoft社のフォーマット(doc, xls, pptのいわゆる97-2003形式)で作成していました。私がOpenOfficeで作成したファイルを読む人の利便を考えたからです。ですがMS Officeで読むと、微妙に細部がずれるなどの問題が生じました。「やっぱりOpenOfficeでファイルを作成しても不便かなぁ・・・」などとも思っておりました。

しかし、考えてみたらこれは話が逆です。

すべての人にICTのアクセスをという理念で作られたOpenOfficeなどのソフトは、そのために国際的に定められたOpenDocument Format (ODF)で保存され使用されるべきです

むしろMicrosoftのようにほぼ独占的に儲けている企業がODFに合わせるべきで、OpenOfficeなどのボランティアによる無料ソフトが、独占的に営利を得ている企業のフォーマットに合わせる努力を強いられるのはおかしな話だと私は考えます。

現在OpenOfficeはかなりの精度でMS Officeのフォーマットに対応できていますが、完璧ではありません。しかし完璧でないからといってOpenOfficeを批判するのは筋違いです。逆にMS Officeの方が、OpenOfficeのフォーマット(ODF)に「完璧に」対応できることを求めるべきだと私は考えます。何度も申し上げますが、MS Officeがほぼ独占に近いような状況で利益を得ている以上、フォーマット対応への努力はMicrosoft社が負うべきだと考えます。


ですから、私はこの10月から、私は2012年10月から試行的にMS Officeの使用を止めて、OpenOfficeをOpenDocumentフォーマット(ODF)で使うことを基本にします

仕事の相手から具体的にMS Officeのフォーマットでのファイル提出を求められれば別ですが、そうでない限り、ソフトはOpenOfficeを使って、しかもOpenOfficeのフォーマットOpenDocumentFormat(ODF)で保存します。

公共の仕事である教育と研究に関しては可能な限りOpenOffice/ODFを使用することを私の方針とします


MS OfficeはODFもきちんと扱えるはずです(いや「べき」です)。もしODFがきちんと使えないなら、MS OfficeではなくOpenOfficeなどのボランティアが作成した無料ソフトを使えばいいだけです。

またMS Officeも、ファイルをODF形式で保存できます(WordでしたらOpenDocumentテクスト、ExcelでしたらOpenDocumentスプレッドシート、PowerPointでしたらOpenDocumentプレゼンテーションを「ファイルの種類」として指定すればいいだけです)。

私は仕事相手に迷惑をかけることはできるだけ避けるつもりですが、少なくともよりよい社会、より公正な社会をつくるための教育・研究活動ではできるだけOpenDocumentフォーマット(ODF)を使うことを試行します。

「何を青臭いことを言っているんですか。学生はいずれMS Officeを使わねばならないのだから、それをきちんと教えることこそが親切でしょう」と批判する方もいらっしゃるかもしれません。

しかし私は、特定の商品への対応ばかりを教えることが公教育のするべきことだとは思いません。もちろん商品が基盤となっているこの資本主義社会で、商品について一切具体的に語らないというのは不可能ですが、Microsoft社の商品の使い方ばかりを教え、その結果(たとえ意図せざる結果とはいえ)社会の中のICTの公共性を大切にしようとする試みを抑圧することは、私は公教育機関の教師の仕事だと思いません。私は資本主義社会の全面的否定などはしませんが、無批判的な是認や追従も同様にしません。

もちろん実社会に出れば、少なくとも現状ではMS Officeを使うことが求められているのは事実です。しかしMS Officeの使い方に関しては、Microsoft社や他の団体が多く無料でウェブ上で解説をしています。さらにわかりやすく・使いやすくまとめられた書籍も比較的廉価で売られています(Microsoft社の商品がほぼ独占的な立場にあるにせよ、Microsoft社の商品の不備をサポートするための商品を開発する会社はたくさんありますから、資本主義的競争により、よりよい商品がより廉価で販売されます)。要は、教育などの公共性の高い分野は、市場が解決してくれることは基本的に市場に任せ、市場が解決しにくい公共性の高い問題に取り組むことを基本姿勢とするべきだと私は考えています。

もちろん、OpenOffice/ODFばかりを使ってみたらいろいろな細かな問題を発見するかもしれません。「試行」と呼ぶ所以です。しかしその発見の中から、いろいろな改善点を探し、社会がよりよいものになるための方策を探してゆきたいと思います。

これは私個人の試みですが、私としてはより多くの人が、社会的共通資本と考えられる・考えるべき事柄に対して公共性を高めるべく行動するべきだと考えます。たとえ短期間は多少の不便を忍ばなければならないにせよ。その努力を怠り、資本主義的競争にばかり社会のあり方を決定させるなら、ますます格差が広がり、「持たざる者」にされた人々が、経済的・文化的・社会的・政治的にますます力を失いかねません。私はそれを公正なこととは考えません。



とりあえずソフトとしては、以下を使います。


Apache OpenOffice

http://www.openoffice.org/ja/



みなさんもよろしかったらどうぞ。ちなみに、OpenOffice.org日本語プロジェクトのツイッター@jaopenofficeorg)は、https://twitter.com/jaopenofficeorgです。



追記1

現在私の勤務する大学では、学生は(ある制限内で)「無料」でMS Officeをダウンロードできます。大学がMicrosoft社と一括契約してお金を払っているからです。教職員もMS Officeを自由にダウンロードできます。ですから私の大学の構成員は事実上MS Officeを入手することに何の問題もありません。大学としてもこの一括契約により、教職員が個々の予算でMS Officeを購入することに比べれば、相当の予算を節約できているとも聞きます。

しかし、これはMicrosoft社がこれから社会に出る若者にMS Officeを優先的に使わせ、MS Officeの事実上の独占体制をますます強化するための(きわめて合理的な)ビジネス戦略だと考えています。Microsoft社が一括契約をするのは、善意ではなく、営利のためだと考えます(営利こそは資本主義企業の基盤であり「倫理」です)。

しかしそもそもOpenOfficeのように無料でも十二分に機能的なソフトは作れます。私は、これ以上、Microsoft社だけが儲かるような社会的な仕組みや風潮には加担すべきではないと考えています。


追記2

私がMS Officeに対して否定的な意見をもつのは、特にMS Wordが不安定で使いにくいからです(Microsoft社の商品では特にWordとInternet Explorerは使う気にはなれません)。これだけ世界中でお金を集めながら、どうしてこのようなソフトしかできないかと私は常々思っています。この不安定さと使いにくさをできるだけ回避するため、私はほとんどすべてのテクスト作成作業をエディターで行なって、最終段階でそれをMS Wordに移植していましたが、今後はそれをOpenOfficeに移植することにします。(エディターについてはコメント欄を御覧ください)。


追記

OpenOffice.orgについては以下のマニュアルが参考になります。公共の利益のためにマニュアルを作成・無料公開されている方々に心から感謝します。


OpenOffice.orgオンラインマニュアル
(秋田パソコンステーション作成)
http://www.ne.jp/asahi/pa/sta/openoffice.html



徳島県(県庁ホームページ)
OpenOffice.org(オープンオフィス)操作マニュアルの公開について

http://www.pref.tokushima.jp/docs/2011081000092/


2 件のコメント:

  1. はじめまして。私も、MSの商品については、懐疑的で使用に若干の戸惑いがあります。仕事柄MS Officeの商品を使用は避けられないのですが、ブラウザはIE以外を使用しています(そもそもIEは重くて使いにくい、カチカチうるさい)。一つだけ、質問させて下さい。

    >私はほとんどすべてのテクスト作成作業をエディターで行なって

    とありますが、エディターとはWindowsでいうところのメモ帳、Mac OSでいうところのテキストエディットのことでしょうか?もし、そうでしたら、イタリックや太字などは、ご自身でタグを打っていることでしょうか?

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  2. Dreさん

    コメント投稿をありがとうございました。
    エディターは、当然Windowsの「メモ帳」ではありません(笑)
    これは本当にメモ程度にしか使えないもので、文章を書くための
    エディタではありませんから。

    私が使っているのはNo EditorとWZ Editorです。

    イタリックや太字を入れる場合は、No Editorに用意されている
    アイコンをクリックすることで、HTMLのタグを自動的に入れる
    ことができます。

    ブログに文章を掲載する時にはそのままそのHTMLのタグが
    使えますので便利です。(他のワープロソフトに移植する
    場合は、手作業でその部分をイタリックや太字に変えます
    --ちょっとこれは原始的作業ですね(苦笑)。

    No Editorにはその他にも語数カウントなどありますので、
    非常に便利です。

    しかし長い文章を書く時にはWZ Editorを使います。
    アウトライン機能がすばらしいからです。

    No Editor (エヌオーエディタ)は素晴らしい
    http://yanaseyosuke.blogspot.jp/2010/04/no-editor.html

    エディタWZ Editorの導入
    http://yanaseyosuke.blogspot.jp/2008/03/wz-editor.html

    Dreさんからのコメントだけでなく、複数の方からメールや
    SNSで、この記事への共感のコメントをいただきました。

    ICTの公共性を高める努力を試行したいと思います。

    2012/09/23
    柳瀬陽介

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